地域通貨の目的と機能
なぜ通貨にするのか
地域通貨が備えるべき要件について
地域通貨の仕組みと問題点

地域通貨の目的と機能

  私企業の利潤追求を動機とする市場経済システムでは、そのコストに合わない投資や労働は、それが少子高齢社会と弱者にとって、どんなに必要なものであっても供給されることはない。
 また、現在の地方自治体の財政危機の下では、市民・住民のどんなに切実なニーズがあっても、自治体もそれに応えられない場合が生じる。
 地域通貨は、いまの市場経済ではまかなえない投資や労働を供給していくための地域福祉コミニュティーにおける通貨である。
  元々、通貨は、古代集落間での通貨発生時点から今日まで本質的には地域通貨である。

 

なぜ通貨にするのか

  1. 職域における収入低下や不安定化に対応する。
     市場労働(仕事)の対価たる法定通貨(賃金)の減少分をボランティア労働の対価たる福祉通貨で補おうとするものである。例えば、これまでの法定通貨による収入が22万円あったとして、これが何らかの理由で20万円に下がったとしても、この差額2万円分を、自分が行うボランティア労働に対して支払われる地域通貨で補う。
     
  2. それは、市場経済の中でのマルチジョブ収入を意味するものではない。
     二つの事業所で働き、二つの収入源を持つというマルチジョブが可能な人は、それはそれで問題はないので、ここでの検討の対象とはしない。問題は、失業者の多い現在の労働市場の中で複数の職業を持つことは困難であり、さらに家庭的な事情・時間的な事情・労働能力などの理由で、このマルチジョブに就けない人達が圧倒的に多いということである。
     この人達が職域における急激な収入低下の危機に直面し、日々の生活費や住宅ローン・進学ローンの返済など長期的な生活設計が立たないという不安定な状態にあるということである。
     これは、もし、家族の誰かが大きな病気をしたり、介護を必要とするようになったら家計は簡単に崩壊することを意味する。つまり、ボランティア労働による地域通貨の入手と使用が可能になれば、それによって浮いた分を、法定通貨でしか通用しない他の出費に回せる。
     
  3. いま求められている投資機会や労働供給機会は地域にある。
        社会と弱者にとって、どんなに必要な投資や労働であっても、市場経済メカニズムの中では供給されることはなく、また、いまの市場経済の中では投資や労働の供給は飽和状態にある。
     そういう中でも、地域には、市場経済メカニズムではまかえないけれども、しかし、切実に求められている投資と労働の必要性は存在する。
     地域通貨は、こういう必要性に対応しようというものである。現在の投資と労働供給は、各企業と行政に独占され、あたかも、それ以外の経済活動など眼中に無いかのごとくである。
     社会は、企業と行政だけの活動によってのみ存立してるものではなく、そこには市民・住民として生き抜いている福祉経済活動があり、これを、国民経済の中に持ち込みカウントさせる機能を期待できる。
     
  4. 退職者や志を持つ人達を中心として地域に潜在しているパワーの発現媒体でもある。
       自分の生き甲斐や自己実現は、自分の内部で完結するのではなく、自分以外の他人との関係性の中で得られるものであろう。つまり、企業内での労働から離れた退職者や、労働時間外にある地域の有志の人達にとって、今の自分と自分の能力が、人の役に立っているという実感が得られているかどうかである。
     これまで労働してきたことによって身についたもの、現に労働していることで身についているもの、労働以外に自分の好きな分野で身についたものなど、これらの保有者が発揮したいと思っている種々様々な人的パワーや能力が地域には潜在している。
     
  5. 気軽に必要な介護を地域に求めたり、年金生活者の収入不足への対応ができる。
       低額の年金生活者や、元気な高齢者にとって自尊・自立を確立するには、あまりにも低い年金額である。高齢者医療費と介護保険の負担増は、それに追い打ちをかけている。
     先に触れたように、元気な高齢者や志のある人達の種々様々のパワーを、もし有償ボランティアとして地域に引き出すことができれば、地域としても必要な種々様々なパワーを得ることが出来る。
     また、有償ボランティアで得た地域通貨を、自分が必要とする時に有償ボランティアとして求めることが出来れば無用な遠慮や気遣いをしなくても済む。
     
  6. 住民の生活消費の根幹になっている地域サービス業の発展を支える
       いまは、大手のスーパーでも閉店に追い込まれる時代である。秋津レークタウンで、これらのスーパーはもちろん、店一軒でも閉店に追い込まれたら、このタウンでの高齢者の日常の暮らしは、ほぼ成り立たなくなる。
     レークタウンの居住地域としての利便性も動産・不動産の価値も下落し、格付けが下がってしまうことは明らかである。よって、それぞれの店舗ごとの経営努力も必要であるが、文字通り俺が街の「お店」として、住民が積極的に利用し育てていく取り組みの具体的な媒体としての地域通貨が必要である。
     
  7. かしこい消費者・市民としての地域通貨
        スーパーの廃業や雪印乳業・食品の例にも見られるように、企業の経営責任や社会的モラルを強い力で問えるのは消費者・市民としての見識や、かしこい選択である。
     良識的な企業活動や生協活動を支えていくのは、このような消費者の意識である。地域通貨を生み出す市民としてのボランティア活動と、その循環を支える消費者としての行動は、現在の倫理観を失った強い者勝ちの社会風潮に対して是正を迫ることの出来るパワーとなる。
     
  8. グリーンコンシューマーとしての地域通貨
     自然環境保全の取り組みは、環境運動をやっている市民団体に入らなければ行うことができないというわけではなく、一消費者として日常の環境に優しい消費行動の中で、それは可能である。
     つまり、グリーンコンシューマーとしての積極的な関わり方としての地域通貨「エコマネー」が位置づけられる。
     
  9. 福祉の街づくりのイメージと地域通貨
     以上のように、ここで地域通貨に触れたのは、「地域通貨」の観点や視点から見れば「福祉の街づくり」の一つのイメージが得られやすいからである。
     よって、本稿は、直ちに地域通貨の発行を想定して記述したものではない。

地域通貨が備えるべき要件について

  1. 地域通貨の法的問題
     世界各地で実施されている地域通貨は、その国々の中央銀行から既に認められたものとなっている。日本においては、2001年度の国民経済白書でも、評価に値するものとして記述されている。
     もちろん「法定通貨と交換しない限り」という枠内である。しかし、この地域通貨が全国各地に普及すれば、それぞれに、法定通貨との為替レートの相場を定める動きが出てきて法定通貨との交換が可能になるかもしれないという話しも出てくるようになってきた。
     いわゆる「国家の信用通貨」に対する「国民の信頼通貨」への道である。
     
  2. 国内におけるNPO活動と福祉マネー市場
     現在、NPO関連団体における事業活動は、これを経済活動規模に換算し直すとGDPの約1%に達していると言われている。それは、従来の市場経済メカニズムの外にあって 行われている、社会と弱者にとって不可欠の事業である。
     ここには、形態は様々であるが法定通貨や地域通貨を使った決済システムが機能している。いわゆる福祉マネー市場がすでにGDPの1%規模で立ち上がっている現状にある。
     
  3. 全国各地の地域通貨
     いま、全国では資料よって異なるが200カ所以上の地域で地域通貨が実施されている。
      通貨ではなく、ポイント制やボランティア提供時間数制をとっている形態が多いが、東京渋谷区の一部商店街とそのボランティアグループや北海道栗林町など通貨を発行しているところもある。
     もちろん、地域通貨の使用金額の上限や発行金額など、その地域の「地域通貨発行委員会」が管理している。あくまでボランティア提供が、通貨の裏打ちになっているため、地域通貨を使わずに、どんなに保有していても、1年間が使用有効期間と定められ、その時点で地域通貨の債権・債務はなくなる通貨制度が多いようである。
     
  4. 地域通貨「クーマ(仮称)」の発行委員会の設立
     まず、レークタウン地域に、ボランティア労働の供給力として、どういう種類と量があるのか不明なので、地域の志のある人達の「ボランティア提供の種類と提供時間数」を登録してもらわなければならない。
     一方、どういうボランティアをどれだけ受けたいと希望する人も登録してもらわなければならない。そのボランティア需給希望に応じたマッチングは「安心サポートセンター」で行うが、それを有償とする地域通貨の発行は、地域通貨のネットワークに参加する全ての団体・個人によって構成される「地域通貨発行委員会」で行う。
     地域通貨は、ボランティア労働が価値源泉であるため、地域で行われたボランティア労働の量と地域通貨の発行量は、常に1対1の関係になければならない。 
     

地域通貨の仕組みと問題点

  1. 地域通貨の発行
     仮に、1円=1クーマ(仮称)として、1時間のボランティア報酬を800クーマとする。
     月に10人の登録者が各々10時間づつボランティアをしたとすると、各人には8000クーマが発行委員会から手渡される。10人で80,000クーマが発行量である。
     
  2. 地域通貨のボランティアにおける循環
     8000クーマを持ったAという人は、自分も、10人の人から各々1時間のボランティアを受けたので、その支払いに使ってしまった。
     結果、この10人の各自の手許には100クーマが保有されることとなった。この10人の人達も、自分がボランティア提供を受ければ問題ない。
     
  3. 営利事業と地域通貨
     一方、同じく8000クーマを持ったBという人は、床屋に行き、理髪代金3000円の内、現金で2000円、残りを1000クーマで支払った。
     結果、この床屋には1000クーマが保有されることとなった。同じくCという人は、クリニックへ行き、医療保険外の治療を受け、その治療代の一部として5000クーマを支払った。
     結果、クリニックには5000クーマが保有されることとなった。
     同じように、文房具屋にも、酒屋にも5000クーマが保有されることとなった。
     
  4. 問題がないボランティア労働どうしの交換
     以上のことから、ボランティア労働どうしの交換媒体として循環する地域通貨には、その循環過程において、特に現金を用意しなくとも、地域通貨によって、介護の手助けなどを必要とする人にとっての使用価値が実現しており、なんら問題ないことが分かる。
     
  5. 営利事業と地域通貨の問題点
     しかし、床屋・クリニック・文房具屋・酒屋にそれぞれ保有されているクーマの循環はどうなるのだろうか?
     その一つの答えとして、これらの店舗の店主や家族も、ボランティア提供を受けることがあるだろうから、それに使えばいいということになる。
     しかし、これらの店には、クーマが集中する傾向が強く、月に何万クーマも貯まるようになると、ボランティアを受けるだけの使い方だけでは差損が大きくなり過ぎる。ボランティアを受ける必要がない場合もある。
     
  6. 営利事業と地域通貨の循環方法
     つまり、このような収益事業と地域通貨との関係をどのように解決するかが問題となる。
     そこで、個人商店の場合、人手は欲しいが、人件費の上から雇えないままに、無償か、それに近い家族労働で、人手不足をまかなっている店舗もあるに違いない。
     こういう店舗こそ地域通貨のネットワークに入ってもらえば、地域通貨を使った買い物客も来店するし、その分貯まったクーマで地域のボランティアに来てもらい店の人手不足を補うという方法も考えられないことではない。
     
  7. 地域通貨の差損の問題
     このように差損が大きくなり過ぎることへの対応として、例えば、渋谷の一部の商店街の喫茶店では、コーヒー代金の10%相当金額についてのみ地域通貨での支払いを受け取っているところもある。
     いずれにしても、試行錯誤の経験を経なければ、大き過ぎる差損を予防するための地域通貨使用の上限額は決められないかもしれない。
     
  8. 営利事業も、地域では一市民・住民である(企業市民)
     ただ、収益事業を営んでいる店舗とはいえ、「うちは営業としてやっているのだから、ボランティア的なことは一切出来ない」「地域住民の皆さんがボランティアで得た成果を、うちの商売として頂くだけです」ではいけないと思われる。
     やはり、地域の一員としてのボランティアには関わっていただくことが必要だと考えられる。
     
  9. これからの研究課題
     いずれにしても、地域通貨は、これからの研究課題であり、関心ある人達との充分な意見交換や先進地域での勉強の機会を設けることなどが必要である。
     
  10. 発行クーマが地域のスーパーに集中した場合の試算
     試算の考え方は、次のとおりである。
     まず、年間に必要なボランティア労働時間数を想定し、この必要な労働時間数が完全に供給されると仮定する。
     とすれば、これが、年間のボランティア労働発生時間数となる。地域通貨の発行を今からおよそ3年後とすれば、その時のパート労働の時間給相場を800円と仮定し、これに比例する形でボランティア労働1時間を800クーマとして、年間のクーマ総発行量、つまり、地域通貨クーマの全額を算出する。
     そして、この全額が、地域のスーパーに集中した場合、スーパーは全額を、どのようにしたら、再度、地域に環流出来るのかを検討する。(もちろん、以下の試算は、多人数による充分な検証が必要である)
     
    •  年間のボランティア労働発生時間数の算出と発行クーマ量
       秋津レークタウン3000人の高齢化率を5%とすると65歳以上は150人。この内の要介護認定者が3分の1とすると50人。
       さらに、この内でボランティア労働の提供を受けたいという人が3分の1いたとすると15人。この15人のボランティア労働請求者が、15人の平均で、一人あたり週に4時間のボランティア労働の提供を受けたとすると、平均すれば一人あたり月に18時間の提供を受けることになる。
       18時間×800クーマは約14400クーマになり、これを一人あたりの1ヶ月の上限額とする。年間では14400クーマ×12ヶ月で172、800クーマが、年間一人あたりの上限である。1 5人では、15人×18時間となり、15人全員で月に270時間のボランティア労働の発生時間数となる。年間は、270時間×12ヶ月で、年3240時間となる。
       これをクーマの発行量に換算すると3240時間×800クーマで、2,600,000クーマとなる。この年間260万クーマが、すべて地域のスーパーに集中したと仮定する。
       
    •  260万クーマの人件費に占める割合について
         秋津レークタウン地域のスーパーは24時間営業。これを6時間労働で働くパート4人でリレーしているとすれば、時給800円として19200円、深夜も考慮すれば、一日あたり人件費は20000円。
       年間は、20000円×365日で7,300,000万円、間接費も加算すれば800万円が4人の人件費として支出されていることになる。
       一方、スーパーに集中した260万クーマは、4人の人件費額800万円の34%を占めるに過ぎない。したがって、店としては、法定通貨である現金を支出しなくても、地域通貨260万クーマを、ボランティアで働いてもらう費用に充てて一年間で使い切ってしまえばよいことになる。
       つまり、この方法をとれば、店にとっては260万円の減収にはなるが、現金による人件費支出が260万節約できることになるので「差損」は生じない。
       
    •  では、何人のボランティアが何時間づつ働けばいいのか?
        年間260万クーマを一人あたりの年間上限額である172,800クーマで割ると15となり、15名のボランティアが、各人それぞれに年間216時間、月に18時間を働いてもらえば、店は260万クーマを1年間で使い切り、かつ、ボランティア一人あたりの年間手取りクーマも上限の172,800クーマ、月当たり上限の14,400クーマとなり、双方にとってクーマが多過ぎて困ってしまうということはなくなる。ごく当たり前のことだが、これが、ボランティア労働を価値源泉とする通貨の収支バランスである。
       
    •   この地域通貨の循環に寄与することがスーパーのボランティアとなる
       こうして、スーパーに集中した260万クーマは、再度、地域に還ることになる。スーパーにとっては面倒な話ではあるが、それが地域スーパーとしての「福祉の街づくり」のボランティア行為である。それは、また、スーパーにとって志ある顧客の定着と拡大、地域からの支援の獲得をも意味することになる。
  1. 一年を過ぎた地域通貨の取り扱いについて
     ボランティア提供者に限って、本人の承諾のもとで預金通帳を作成交付し、振込手数料の免除か、あるいは、上限枠3万円(735円)を100円万に引き上げる。
     地域通貨は一年を過ぎたら発行順に一応の有効期限を過ぎて失効するものと、そういう期限の定めのないものとが考えられる。その際に、クーマを使わずに手許に残った残額の取り扱いをどうするのか検討課題になろう。
     そこで、地域通貨の預金積立の方法を考えてみるのも一つの方法である。
     260万クーマのうち半額の130万クーマが各ボランティア労働提供者の手許に残り、これが地域の金融機関に預けられたと仮定する。もちろん預金通帳の発行が前提となる。
     
 ここまでの地域通貨に対する説明では、ボランティア労働を提供できる人しか地域通貨を手にすることが出来ないという前提で話を進めてきた。しかし、これでは、体が不自由でボランティア提供ができない人(その多くは、要介護者であり、年金額も低額で日々の生活も楽ではないであろう)は、地域通貨を手にすることが出来ないことになる。確かに、地域通貨によるボランティアを受けることで、その分は自分の保有する法定通貨を節約できるが、自分の自由になる地域通貨は保有できない仕組みになっている。